その3.魔の調理士ジャン・ジャン・ガーの巻 作/ヒゴッコ・タロー


 ウッカリ・ハチェベェにはひとつだけ人より抜きん出たものがあった。嗅覚である。彼がキャッチした食べ物の匂いをかれこれ三日追っていた。またしてもハマヤ一行は飢えに悩まされていたのだ。それも生命の危機を感じるほどに。しかし、どうにも風が強い。緩やかに振る幅広い回廊を強い風が右に左に気ままに吹き荒れていて、臭源を特定できずにいた。
「こん風は、馬鹿にしとっとじゃにゃーや?」
ハマヤがつぶやいた。気がつくと目の前には大きな木の扉が立ち防がっており、風はその隙間から気味の悪い音を奏でながら吹き出ていた。
「匂いはこの扉の向こうからだ」
 古い大きな扉にはこれまたでかいカンヌキがかかっていた。その巨大さはまるでキングコングの映画のセットのよう。力持ちのゴーリキ・スニフコフがいざ開けんと近づいたその時、電源の入る音が鈍く響き、扉はカンヌキを付けたまま真横にスライドして開いた。


「なん、こら自動ドアたい」
「あら〜分らんだったー」
 吹き出す風に逆らいながら一行は中に入っていった。中は切り裂くような竜巻が渦巻いており、昔は格納庫だったらしく天井は恐ろしく高い。
 
突然、腹ワタに響くような獣の咆哮がした。と次の瞬間、ゴーリキが巨大な赤い口にさらわれていた!!赤い牙だらけの口のあとを青緑のうろこが床を削りながら上昇していく。
「…龍だ!」


気が狂ったかのように頭を振り乱しながら上空で旋回し、ゴーリキを噛み砕いた血を辺りに撒き散らしていた。
「ここは一計、逃げるが勝ち!」
青ざめながらもいかにもハチェベェのセリフ。
「待て!」
ハマヤが指を指した方向に、なにやら白い人影らしきものが見えた。その男は調理服を着ており、ものすごい勢いで走り寄り、必死の形相で叫んだ。
「あなた、タマネギ切る!あなた、ニンジンッ!あなたっキュウーリッ!」
手に抱えた材料をひとりずつに放り投げた
「えっ?えっ?ほっ包丁は!?」
訳がわからんままハマヤが尋ねると、
「その槍や刀は何の為ネ?!」
と調理服は一喝した。
「あ!あなたは、もしかして魔の調理士ジャン・ジャン・ガーでは?」
物知りジテンヌが聞いた。


「そんな事どうでもイイッ!早く切るネ!死にたいデスカ!」
あわてて一行は材料を切り始めた。となりで中華レンジの火を着火するとその炎は10メルテ以上にもなり、龍にも勝るとも劣らない咆哮を上げ始めた。
「スゲェ…」
キッチ・ヨムがつぶやいた。


「ここの中華レンジは4万5千キロカロリーもあるネ(注:事実です)ヨシッ!今!材料入れるネ!」
 ものすごい火力で出来た料理は、あっという間に皿に盛られた。
“トンッ”


 テーブルに置かれたその瞬間に風がパタッと止み、静寂がまたたく間に辺りを支配した。
「‥助かった」
「龍はどうしたんだ?」
 調理服の男が汗を拭きながら答えた。
「龍は静まったネ。ワタシがスーパイコのお供え作ったからお腹一杯になったネ。ここの守り神に戻ったヨ」
やれやれ、と思った瞬間、又しても獣の咆哮か!と思いビクッとしたらキッチ・ヨムの腹の虫の音だった。
「あ〜ミンナお腹ペコペコネ。手伝ってくれたお礼、ご馳走するヨ。坦々麺と子海老のマヨネーズ和えネ」
おぉ!やったー!と一同大喜び。
「あなたはやっぱり魔の調理士ジャン・ジャン・ガーでしょう?龍を鎮めるなんて、彼しかできない」
ジテンヌが聞いた。
「ハハハ、ワタシそんな有名人じゃないネ。でも料理は上手ヨ」
 たしかに料理は死ぬほど旨かった。何年か振りに味わう至福の時であった。

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後日談:
龍に食べられたと思われていたゴーリキ・スニフコフは実は生きていた。信じられないバカ力で口の中で踏ん張っていたのだ。皆が血と思っていたのは恐怖のあまりにゴーリキが、しかぶったもの(熊本弁=おもらし)らしい。ただし彼はこの時の恐怖とスーパイコが食えなかった恨みのせいでダークサイドの手先となって、その後ハマヤたち一行を追け狙うことになる。

後日談その2:
ちなみに現在この格納庫は、人民大食堂ジャン・ジャン・ゴーとして営業しているが、この時の名残で龍の頭はトイレに、鱗は吹き抜け中央の柱に照明器具としてヒゲと一緒に絡み付いており、鱗で削れた床は当時のままにしてあるそうな…。



カンヌキがかかる大きな扉は、今もカンヌキをかけたまま横にスライドする自動ドアとして皆を驚かしています。
●人民大食堂ジャン・ジャン・ゴーの扉

 



ジャン・ジャン・ガーは居ませんが、日夜厨房では調理師達が、4万5千キロカロリーの炎と格闘しています。
●ジャン・ジャン・ゴー厨房(店内より見ることができます)

 

 

その4へつづく(5月末発信予定)